2005 7/25

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扉を開けると、昔と全く変らない光景がそこにあった。

白いペンキ塗りの部屋。

家具も、電化製品も全く同じように配置して有った。

ただ昔と一つ違うことは、その部屋のソファーに

田中肇が座っていたことだ。

 

5年前からずっと実家に引き篭もって、僕が声を掛けても

けして会おうとさえしなかった肇が目の前に居る。

その事実を頭の中で理解するのに時間がかかった。

 

「ひさしぶりだなK」彼はニヤリとしながら言った。

佐伯?斎藤?どれも違う。K、そうそれが僕の本当の名前だ。

 

「この部屋の時間は歪んでいる。ここだけは別世界になっている―

というよりも2005年に、時間が固定されていると言った方が正確か」肇は言った。

 

「K、5年前に製造年月日が2005年のコーラあったの覚えてるか?」

 

「覚えている」僕は言った。

 

 

「実はな、別件の確認も含めて、5年前にお前と一緒にこの塔に来た後に

一人でまたここに来たことがあるんだよ。だけどここにある物は、

 

コーラだけじゃなくな、全て2005年のものだったよ。この部屋の時間は5年前も、

2005年だったし、それから変わらず、もちろん今も同じ時間のまま停止している」

 

にわかに肇の言うことが理解できなかった。

そんなSF的なことはありえるのだろうか?

 

そもそも2005年になってしまった今、この部屋の時間が当時と

同じかどうかを証明できるはずも無いわけで。

 

「俺はここで世界の全てを知ってしまった」肇は言った。

 

「世界の全て?一体なんのことだ」僕は言った。

 

「K、俺はあそこで本当の意味での全てを知ってしまったんだ」

 

同じ言葉を繰り返した。

 

「それが、僕と顔も会わさず、引き篭もり続けた理由かい?」

 

純粋な意味での質問をぶつけた。

肇にとっては少し嫌味に聞こえたかもしれない。

 

 

少し思案したあと「そんなところだ」肇は淡白に言った。

 

「ここで説明するよりも、実際にアレをお前に見てもらった方が良いな。

 

地下のあの部屋について来てくれ」肇は言った。

 

僕は、肇の突然の豹変振りに少し驚きながら、

地下へと続く螺旋階段の道を、一緒に降りていった。

 

その先の扉を開くと、昔と同じような図書館とも言える様な部屋が有った。

昔の光景がフラッシュバックした。

 

 

「LAST DUSH」と書かれた本は、昔と同じように机の上に置いて有る。

僕はこの「LAST DUSH」を手にとり読み進める。

 

その本は―。

 

僕たちの世界の物語だった。

 

僕たちの世界の事を描いた物語だったのだ。

 

出てくる登場人物は、僕たちの知っている人ばかりだ。

 

「そんな馬鹿な話は。」僕一人で呟いた。

 

まるで、日記のようにページ毎に日付が付けられていて、

そこには、僕らの過去の出来事が記されている。

 

次々にページをめくり、ついに「今日」の日付まで辿りつく。

そこには、僕がここで肇と再開することも書いてあった。

 

「そんな。これは一体どういうことだ!」僕は机を叩いて叫んだ。

 

そして、そのページに行き着く。

そのページは完全な白紙。

 

 

本来7月26日にあたる日。そう明日が存在しないのだ。

それはあまりにも呆気なく悲しい「物語」の終わりだった。

 

このLAST DASHは未完のまま終わっていたのだ。

誰かが書いて途中で断念した物語、それがLAST DASH。

 

肇は5年前に世界の全てを知ってしまった。

そして、肇が人前から消えたのも、その物語の一部だったのだ。

 

「この本、この世界は今日で終わってしまう。

これは絶望的なことだが、避けられない事実だ。」

肇は僕をなだめるように言った。

 

「僕らは神じゃない。だから物語の結論は変える事はできない」肇は加えた。

 

僕らはこの物語の登場人物にしか過ぎない。

だから、この世界の終末を変えることは出来ない。

 

「僕らにできる事は、せめてこの世界の終わりの

時間を心安らかに過ごすことだ。」肇は言った。

 

そもそもこれは誰が作った物語で、

誰が読み手なんだ?疑問がふと頭をよぎる。

 

僕は、この忘れられた図書館の中の他の本にも目を通す。

ここに有る本の山は「LAST DUSH」と同じように、

読まれずに忘却の彼方に消えてしまったような

本の山であることに気づかされる。

 

 

よくよく見れば、僕らの「物語」のように途中まで

書いて書き捨てられた本がいくつもあった。

中には、全く書き込まれていない本。さまざまな本が置いて有った。

 

 

「確かにこの僕たちの世界は今日で終わるかもしれない

ならば、僕らで続きの世界を作る事はできないのか?」僕は静かに言った。

 

物語の終わりの時間は近づいてきている。

そう、僕たちの命はその白紙のページが来るまでなのだ。

 

「この世界の終わりはもうすぐだ」達観して肇は言った。

 

そして24時を過ぎ、僕達の物語は終焉を告げた。