2000 7/23

fourth day

 

バスの中はクーラーが効いていて随分と快適だった。

Kは腕を組みながら隣で目をつぶっていたすやすやと寝ているようだった。

 

今日は、ずっと歩いたり、炎天下の下でバスを待ったりと、きっと疲れたのだろう。

かくいう自分も疲れと、バスのほどよい揺れのせいか、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

「おきろ、肇」Kの声で目を覚ました。

 

「もう着いたぞ、ここが目的地だ」Kは言った。

 

時計を見つめると、時計は三時を指していた。

 

「もう三時か…」僕はつぶやいた。

 

「まだ三時だよ、この位の時間であれば山に登って

 

戻ってくるにしても十分過ぎる時間が有る。」Kは少し笑った。

 

untitled

 

Kと俺はクーラーでキンキンに冷えた快適なバスから

飛び降り、照りつける日差しの中に飛び込んだ。

 

灼熱の日差しが僕らの二つの影をコンクリートの地面に深く焼き付けていた。

Kはしばらく歩いた後に、突然立ち止まって遠く向こうを指差した。

 

「ほらあれだ目的地の山は」

 

それは山というにはあまりに小さかった。

 

山というか、どちらかというと丘という方が正確な気がする。

確かにKの言ってた通り、この程度の山であれば、

登るのも大した労力ではないだろう。

 

 

「これがKの言ってた山か。確かにこれくらいなら登るのもそんなに

苦じゃないな。ところで一体全体この山どこから登るんだ」

 

僕はKに質問を投げかけた。

 

とりあえず、山のようなもののふもとまでは辿りついたが、

その山には登るための砂利道がないのだ。

 

しばらく歩いた後にKは言った。

 

「登り口は無いよ」さも当然のことのように、簡潔に答えた。

 

僕はため息をついた、やれやれ。

 

「おまけに登るための舗装された道も無い」Kは続けた。

 

Kに解説してもらうまでもなく、それは明白だった。

 

「おい、本当に大丈夫なんだよな?出かける時に親に目的地も伝えてなかったから、

 

もし俺たち道に迷ったらおしまいだぜ。一週間後のワイドショーで、

 

お騒がせ学生二人組み山道で遭難。なんて特集を組まれるのはごめんだぜ。」

 

「大丈夫、俺は親に事前に目的地伝えておいたからさ」

 

「遭難しない事を祈るよ」僕は苦笑した。

 

「大丈夫、それにこんな山には熊だっていないさ」Kは笑いながら答えた。

 

確かに、熊とか凶暴な動物がいそうな感じの山じゃない。

いたとしてもせいぜい、野生の猪か兎がいいところだろう。

 

 

僕はKの後ろを無言のままついて歩いた。

しばらく歩くと、目の前に白い看板が見えて来た。

Kは白塗りされた看板の前で突然足を止めた。

 

こんな全く人が通った気配すらない山道に看板とは何事だろう。

富士山の樹海の看板みたいに、自殺を思いとどまらせる看板の類かと

思い、一瞬ぞっとしたが、少し考えた後にその考えを撤回した。

 

「こんな小さな山で自殺しようとする奴もいまい」

 

根拠はないが、一人でつぶやいた。

 

白塗りの看板には黒字で無機質に「⇒展望台」とだけ書いてあった。

「ここからもうちょっと歩けば目的地につくよ」Kは言った。

 

とりあえず、Kの向かっている行き先が全くの見当はずれな場所という

わけでも無さそうだと分かりほっとした。

 

確かに舗装された道は無かったけど、

草が踏みつけられた後がちょっとした道になっていた。

それを辿っていけば道に迷うことも無さそうだ。

 

「この山には昔、人食い鬼がいたそうだ」Kは突然喋りだした。

 

「昔々おじいさんとおばあさんが」Kの言葉が今にも昔話を

 

語りだしそうな雰囲気だったので、彼の言葉をを遮ってからかった。

 

「その鬼には目が三つあって、指が六本あったそうな」

 

「うん、そりゃ恐ろしいね」適当に相槌を打つ。

 

「人食い鬼はよく村の人間をさ山にさらって食べた、

恐れた村人は山の頂上に鬼を監視するための監視塔を作った」

 

 

「監視塔?もしかしてあの山の頂上にある奴のことかい?」

Kは小さく頷いて続きを話した

 

「村の人は一週間交代制の5人組でそこに泊まりこんで、鬼を監視しようとした」

 

「鬼は見つかったの?」

 

「監視をしても鬼が目の前に現われることはなかった」

 

「結局はどうなったの」

 

「結局鬼はみつからなかったし、行方不明になった人も見つからなかった。

そして、その後も村人の失踪事件が終わることはなかった。」

 

「それでさ、君の昔話の教訓はなんだい?」皮肉っぽく聞いた。

 

「わからない」困ったように答えた。寓話にも、

昔話にもなんらかの教訓がなければいけない。

Kの話はあまりにナンセンスだ。

 

 

「ただ、僕たちが向かってるのははその曰く付きの監視台だ」

 

「ここから見た限り、それほど昔々の物というほどでも無さそうだけど?」

 

「その通り、あそこの監視搭60年くらい前に別の目的で改築されたんだ」

 

「60年くらい前?太平洋戦争とかの頃か?」

 

「ああ、あそこは敵国の戦闘機を発見する目的にその時に改築されたのだ」

 

「こんなところに監視塔立ててもあまり意味はなさそうだがな」

 

 

「それにしても、おいK、まさかこんなしけた監視塔見るのが今日の目標じゃないよな?」

 

ここが目的地だと分かっていながら、皮肉の一つも言ってみる。

 

「そのまさかなんだ」笑いながらKは言った。

 

「すみないけど、もうちょっとだけ付き合ってくれ」Kは続けて言った。

 

よくよくKに話を聞いてみると、どうやらこの塔の建設にKの、

祖父さんが関わってたみたいで、祖父さんが当時残した

文献をKが読んだのが、Kが関心を持つきっかけのようだ。

 

山の中は鬱蒼とした木々で覆われてるおかげで驚くほど涼しかった。

 

「俺は鬼の話は信じられないけど、昔話になるくらいだから

何かしら話の元となる事件はあったのかもな」

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」

 

僕らは踏みならされた草の道にそって歩いてると、

何時の間にか監視搭の前まできていた。

 

その塔は剥き出しのコンクリートの上に白いペンキを

塗りつけただけという代物だった。

 

その白いペンキも殆ど落ちかかっていて、所々に錆びから

にじみ出た茶色のしみができていた。

 

その塔の高さは10メートルほどの高さで、

2階作りの簡素なつくりだった。

そして、Kは入り口の扉に手をかけた。