FIFTH DAY

2005年 7月24日

 

その日の朝は、6時に目を覚ました。

携帯電話のアラームが電子的な音を鳴らし続ける。

 

目的の無い旅ではあったが、本当には一つ心残りが有った。

その、もそもの胸のつっかりと直面しなければいけない時が来たのだ。

 

そもそもの胸のつっかかりと言っても大げさなものではない。

自分の中の気持ちの整理をするため、その程度のものだ。

 

ただ、それをしない限り、多分いつまでも

気持ちがちゅうぶらりんのまんまになってしまう。

 

だから、僕はそこに行くのだ。

そこにいかならければいけないのだ。

それが、自分の中でのけじめに繋がるのだ。

 

そこに行くためのの準備はできている。

 

ショルダーバックには、コンビニで買った

パンを3袋と、1リットルの少し大きめのペットボトル

あとは、歩きやすいこのスニーカーが有れば十分だ。

 

始発の電車に乗る。

朝日が眩しい。

 

 

プラットフォームで、MDを聞きながら電車を待つ。

MDから流れてくる好きでもない流行のJ-POPが、

僕の背中を押してくれている気がした。

 

目の前から電車が迫ってくるのが見える。

電車の自動ドアーがゆっくり開き。私は電車に乗りこむ。

 

電車の中はガランと空いていて、乗車する人も殆どいないようだ。

平日ならば、この時間でも混み合っているいるであろうが、

電車も、休日はこんな時間に乗ろうとする人間はそうはいないようだ。

 

僕は、読みかけの文庫の続きを読む。

小説の登場人物の止まっていた時間が、僕がページの

続きを読み進めるとやっと動き出す。

 

私がページを追うごとに、劇中の登場人物は、

誰かに恋をしたら、失恋をしたり、幸せになったり、不幸になったりする。

私は物語の製作者ではないので、彼らの運命に関与する事は出来ない。

 

思い入れがあるキャラクターがいたとしても、

彼らや、彼女らに幸せになって欲しいと願ったところで、

彼らの「物語」は予め決まっているのだ。

 

 

ただ、私は彼らの物語を一緒に追体験するだけ。

私は、彼らの世界の傍観者であると同時に、

彼らの世界の中での「時間」なのだ。

 

私がページを進めることによって、登場人物の中の時間が流れる。

読まれない物語はずっと時間が止まったままなのだ。

 

忘れ去られ、ひっそりと誰にも読まれずに書き捨てられた物語は、

まるで、生れ落ちる前に殺められた子と同じだ。

 

誰かがその物語を進めてあげなくてはいけない。

そして、彼ら彼女らの「物語」を完結させなければならないのだ。

 

そんな答えの出ない取り留めのないことに想いを

馳せていると、電車のドアが静かに開く。

目的地までは、あともう少し先だ。

 

 

その場所に向かうためのバスは、1時間に一本しかないが、

事前に時間は調べてある。

 

僕は、バス停のベンチで事前に買っていた、

コンビニのクリームパンと、アンパンを食べる。

甘さと、水気の無さを補うために、烏龍茶をがぶ飲みする。

 

日差しは強いが我慢できない程ではない。

時間を潰す手段であれば、MDに携帯電話にと、こと困ることは無い。

3つめのパンに手を伸ばした所で、バスが目の前までやって来るのが見える。

 

バスに乗り込み、その場所へ向かう。

バスの中でメールが一件。

千早さんからのメールだ。

 

 

「佐伯君こんばんは!昨日は付き合ってくれてどうもありがとう。

 

私は今日実家に戻るよ。佐伯君も下宿先が東京だったら、近いよね。

 

東京に戻ったら、また一緒にいろんなところ周ろうね!」

 

思えば、女性と一緒にデート(?)のようなものをしたのは千早さんが始めてだ。

僕は、また彼女とデートをしたい。

 

それに、今度会った時に彼女に打ち明けなければいけないことがある。

だから、これが終わったらすぐに東京に戻ろう。そう決意を固めた。

 

バスが、その場所の近くで停車すると、私はバスからおもむろに降りる。

その場所の目印は僕にしか分からない。

 

僕は、そこから山に登る。

一歩一歩、あゆみを進める。

 

その目的の場所が目の前に近づいている。

 

その場所の近くは、大量のカラスの死骸が散らばっている。

都心から消えたカラスのニュースについて思い出した。

 

ザクザクと、足を踏みしめながら、

一歩一歩あゆみを進める。

 

そう、ここが目的地だ。

目の前には、背の低い白い塔がそこにあった。

そして、僕は入り口の扉に手をかけた。